限りのない夢をみる
「ハッピーニューイヤー!」
舞い上がる銀テープが色とりどりの照明を反射して煌めく様子は、何度見ても心が躍る。客席へと目線を落とせば、それ以上にキラキラとした瞳が見える。
事務所総出どころか、アンサンブルスクエアのアイドルが全員出演のカウントダウンライブは大きな話題を呼び、チケットは即完売、会場のホールは満員御礼だ。歓声と熱気に包まれてこれ以上ない至福の瞬間を感じたあと、間もなく始まったイントロに、緩む口元をきゅっと締め直してステップを踏む。とは言っても四つの事務所が入り乱れている分いつもよりもラフな雰囲気で、肩を組んだり、顔を近づけて歌ったりと様々にこの瞬間を楽しんでいるようだった。周りの様子をチェックしていると、急に右手が後ろに引かれる。その勢いをなんとか堪えて振り向くと、チャームポイントだというその長い髪が楽しそうに跳ねているのが見えた。
「燐音くん、ぼーっとしてちゃダメっすよ」
「俺っちがいつボケッと突っ立ってたってェ」
「そこまでは言ってない!!」
掴まれた右手に力を入れながら言い返すと、ブンブンと腕を振って逃れようとする様子が面白くて笑う。そうすればニキの動きも収まって、怪訝な顔でこちらを窺ってきた。
「なに笑ってんすかぁ」
「おめェこそなにおてて繋いでなかよしこよししてんだよ、おかしいだろォが」
「えー、周りもこんな感じだし、手くらい繋いでてもおかしくなくないっすか?」
そう言いながらキュッとまた手を握るこいつは、自分から手を繋いだり離そうとしたり全く理解不能だ。同じようにニキにとっても、俺がその行動でどれだけ振り回されているかなんて理解できないんだろう。そうとはわかっていても、してやられてばかりいるのは性にあわない。するりとその手を抜け出しその指の股をさすりながら、再び自らの指を差し込む。所謂、恋人繋ぎというやつだ。
「ステージの上ならこンくらいやんないとなァ!」
ニキの返事も聞かずステージのセンターに躍り出る。客席からは悲鳴にも似た歓声が上がる一方、ステージ上から冷たい視線をちらほら感じるのは気の所為ではない、というのは重々承知だ。
そのまま割り当てられたフレーズを歌い切り、ようやく繋いだ手の先を振り返るとそこには僅かに頬を染めながら、それでも楽しそうに笑う男がいる。
いつもは大きく開けて料理を味わう口が、遠慮がちに言葉を紡いだ。
「燐音くん、」
「…おう」
「楽しいっすね」
「そうだな」
「また、見れるっすかね、この景色」
「…来年、また、見るぞ」
「うん」
未来の約束を、伝染したみたいに熱くなる頬と、繋いだ手のひらの温度に刻んで、もう一度愛する人の手を強く握りこんだ。同じ強さで握り返されることが幸せだと初めて知って、まだまだこいつには教えられてばかりだと鮮やかな光を照り返すように笑んだ。
◆◇
「天城、起きてください」
肩を強めに揺すられて、自分が眠っていたことに気づいた。
「ん~、メルメルゥ?」
「天城?まだ出番があることを忘れているのですか?」
冷たい口調に溜息をひとつ。プロ意識の高いこの男には見つからないようにと思っていたのに、どうやら割り当てられた楽屋のど真ん中でやらかしてしまったようだ。
「わーってるよォ。だけど次っつっても終盤のコーナーだし、その前に声はしっかり起こしとくってェの」
寝こけていたソファから身を起こそうとして初めて、自分の他に誰かが寝ていることを知る。
「ならば、ふたりでしっかりと準備をお願いします」
それだけを言うと去っていく背中が廊下に消えたのを見届けてから、馴染みのある体温の名前を呟いた。
「なんでおめェまで寝てんだよ、ニキ」
もたれ掛かる体をそっと抱きしめて、囁く。
「この先ずっと同じ景色を見よう。楽しいことばっかじゃないけど、その分幸せをたくさん見つけよう」
擦り寄ってくる様子が応えてくれているように見えるのは、都合のいい勘違いかもしれない。でもそれでもいいのだ。この胸に満ちる想いのまま、唇を落とした。
「今年も、また、よろしくな」